CloudWatch Application Signals によるモダンアプリケーションの可観測性
2025/11/25
池 文光 | Mankwong Chi

概要
従来の監視は、手動での計測設定や断片的なメトリクス、リソース中心のダッシュボードに依存しており、運用負荷が増大し、人的ミスのリスクも高まりやすくなります。
CloudWatch Application Signals の登場によって、アプリケーション可観測性の在り方は大きく進化しました。モダンなアプリケーションには、より高速で、自動化され、サービス指向のアプローチが求められます。Application Signals は、自動インストルメンテーション、統合されたメトリクスとトレース、組み込みの SLO、そして AWS の可観測性エコシステム全体とのより深い連携を提供することで、まさにその要件を満たします。
本記事では、Application Signals が従来型の監視から大きく転換する理由、分散システムにおけるエンドツーエンドの可視化をどのように簡素化するか、そして最小限の運用負荷で信頼性向上をどのように実現するかを解説します。マイクロサービス、サーバーレス、コンテナ化アプリケーションのいずれを運用していても、Application Signals がアプリケーションの健全性をより賢く、スケーラブルに把握する手段を提供することをご理解いただける内容になっています。
現在のアプローチ
新機能を見る前に、現在のアプリケーション可観測性がどのように機能しているかを振り返ることは重要です。AWS のコンピュートサービスは基本的な CloudWatch メトリクスやトレースを提供していますが、CPU やメモリ使用率といった指標はあくまで基盤リソースの状態を示すものに過ぎず、アプリケーション層の状況を把握することはできません。
本格的なアプリケーションレベルの監視を実現するためには、チームが監視ワークフロー全体を自ら構築し、維持する必要があります。まず、メトリクス、トレース、ログを収集するために SDK やエージェントをコードベースへ組み込み、次にカスタム指標を定義して CloudWatch に送信します。さらに、これらのシグナルを可視化するためのダッシュボードも手動で作成しなければなりません。より高度な構成を行う場合は、サービスレベル目標(SLO)を定義し、CloudWatch のダッシュボードを通じてその達成状況を監視する必要があります。
これらすべての作業には多大な労力が必要であり、アプリケーションが将来的に拡大するにつれて、その管理はさらに困難になります。
Application Signals

このような状況を受けて、AWS は 2025 年初頭に CloudWatch Application Signals を発表しました。これにより、初期設定が大幅に簡素化され、製品ライフサイクル全体にわたる継続的なメンテナンスも簡単になりました。
最新機能により、EKS、EC2、Kubernetes、Lambda、ECS など複数のコンピュート環境に対して、自動的にインサイトを取得できるようになりました。例えば、EKS 上のワークロードは、HTTP や gRPC のトラフィックが公開された時点で自動的に監視されるため、従来必要だった多くの設定作業を省くことができます。
サービスレベルのインサイトに加えて、CloudWatch にはより強力なサービスレベル目標(SLOs)のアプローチが導入されています。これにより、内部ターゲットだけでなく、AWS 上で動作する外部サービスに対しても詳細な統計情報を提供でき、最近ではカスタムメトリクスにも対応しました。さらに、メトリクス、トレース、ログ間のデータ相関が強化されたことで、アプリケーションの健全性をこれまで以上に包括的かつ一貫性のある形で把握できるようになります。
Application Map

さらに強力な機能として、2025年10月にアプリケーションマップが加わりました。これは、サービス同士の連携状況やパフォーマンスのボトルネックがどこで発生しているのかを視覚的に示すものです。X-Ray と同様に、Web → API → Database といったエンドツーエンドのフローを表示し、どのサービスが遅延やエラーの原因になっているかを明確にしてくれます。これにより、問題箇所を迅速に特定しやすくなります。
まとめ
従来のアプリケーション監視から CloudWatch Application Signals への移行は、手動でリソース中心の可観測性を構築する方式から、自動化されたサービス中心のモデルへの大きな転換を意味します。コードへのインストルメンテーション、カスタムメトリクスの定義、ダッシュボードの手作業による作成といった作業を行う代わりに、Application Signals はサービスの自動検出、統合されたメトリクスとトレース、組み込みの SLO、そして可視化されたアプリケーションマップを提供します。これにより運用負荷は大幅に削減され、アプリケーションのエンドツーエンドの挙動をより明確かつ迅速に把握できるようになります。